大学生の生活安全研究会

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性被害の予防と対策、ケア (やさしい日本語版記事あり)

性被害は、被害者の体は勿論のこと、心にも深い傷を残す。

失われた尊厳の回復には時間がかかり、その間に被害者が受ける苦しみは膨大だ。

辛いテーマではあるが、自分や、身近な人の心身を守るためにも私たちは「性被害」について学び、知識を共有していく必要がある。

今回は、性被害の予防と対策、万一被害にあってしまった時の対応についてまとめたほか、一般社団法人・痴漢抑止活動センター様より「性犯罪者のステレオタイプについてお話いただいた。

 

よろしければ最後までお付き合い願いたい。

 

【性被害の4つの型とその対策】

性被害には大きく分けて4つの型がある。(*1)

奇襲型加害者の多くが見知らぬ相手だが、面識のある相手というパターンもある。

以下は実際にあった事例。

・自分の部屋でうたたねをしていたら、鍵のかかっていない窓から侵入してきた加害者に襲われた事件(*1)

→一人暮らしの女性が自宅マンションなどで襲われる事例は特に多く見られる。(*2)

玄関口や窓の施錠に注意し、可能なら二重ロックやドアチェーンも活用してほしい。

また、施錠前に靴を脱ぐわずかな隙を狙って家に玄関に押し入る加害者もいるため、帰宅前後は背後への警戒と素早い施錠が必要。

車に乗った加害者から道案内を求められ、それに応じようと車窓に近づいたところ、車の中に引き込まれ襲われた事件(*3)

→道案内など、被害者の善意につけこみ犯行に及ぶ加害者が後を絶たない。面識のない相手から道案内を頼まれても、断るか、相手との距離感に十分注意して応じることを進める。

また、人通りが少ない道や暗くて見通しの悪い道では、イヤホンで耳をふさがない、歩きスマホをしないなどの注意も必要だ。

常に周囲を警戒し、早足で歩くとなお良い。

そして、もうひとつ。

車は動く密室であり、非常に危険な空間でもあるため、人目のない場を歩くときは側に来る車とも距離をとってほしい。

 

 

②飲酒・薬物使用を伴う型酒の席で、相手が大量に飲酒するよう仕向ける睡眠薬を盛るなどして被害者の意識レベルを下げ、犯行に及ぶパターンが代表的。

酒の席では、判断能力を保てる飲酒量をキープする必要がある。

相手が目上の人間である場合、酒を断りづらいこともあるが「これ以上飲むと体調を崩す」などとはっきり伝え、意識レベルや判断能力を維持してほしい。

また、自分の飲み物などからはできるだけ目を離さず、席を外し戻ってきた際には飲み物を新しいものに取り換えるなどの工夫があると良い。

 

③性虐待型:親や兄弟、親の恋人、そのほか衣食住を管理する者による、継続した性暴力被害。多くの場合被害は日常化しており、相談や告発、抵抗が難しい状況にある。

性被害の証拠を保全し、それをもって外部の人間(学校、職場、行政、虐待被害者支援団体など)に相談することが望ましい。

 

エントラップメント:「エントラップメント」とは「罠にはめること」という意味。被害者よりも目上であったり、力をもっていたりする加害者が、その上下関係、権力構造を利用して被害者を追い詰め、性行為を強要するパターンを指す。明確な暴力が用いられないため、当事者間で「合意があった」とみなされてしまうこともある。

 

以下実際にあった事例。

・加害者が、未成年だった被害者に「自分の車で送ってやる」と執拗に誘い、被害者が根負けして車に乗った後「タダで送ってもらおうなんてムシが良すぎる」と性行為を強要した事件(*1)

被害者を、脅し貶める言葉で弱らせ、力関係の上下を作り出す加害者がいる。やたら支配的、高圧的な人間と2人きりにならない、個人間でやり取りをしないなどの工夫が日常的に必要になってくる。

すでに出来上がった支配関係の中で危険を感じている場合は、警察、上司、指導教員、家族、外部相談窓口などに相談し介入してもらうことも検討してほしい。

 

出張先で、酒に酔った上司(男)と先輩(女)が被害者(女性)の宿泊する部屋に押しかけ、世間話を強要。次第に上司と先輩のようすがおかしくなり、2人は性行為を始めた。そこからさらに、上司は被害者を襲おうとした、という経緯の事件。(*1)

→先輩と上司という目上の立場の2人の性行為に巻き込まれたパターン。被害者と加害者らの間には明確な上下関係がある。

このようなケースにおいても、2人きりにならない、個人間でやり取りをしない、必要なら外部に介入してもらうなどの工夫が日常的に必要になってくる。

また、軽視されがちだが同性間(あるいは女性から男性という構図)でも性被害は起こるので注意。

 

【もしも性被害にあってしまったら】

もしも性被害に遭った時、取ると良い行動 | THYME

 

thyme.buzz

性暴力被害者支援情報プラットホーム「THYME」さんが素晴らしい一覧表を公開されていたので引用。

①まずは落ち着ける場所で心身の安全を確保し、「ワンストップセンター」(#8891)に電話または警察の「性被害専門相談窓口」(#8103)に通報。

②証拠保全。可能ならシャワーは浴びず、被害当時着ていた衣服も選択せず保管。記憶が定かなうちに被害状況をメモしておけるとなお良い。

③病院(緊急外来)へ行く。医師に事情を話し、緊急避妊、性感染症検査をしてもらうと良い。ちなみに、レイプ被害対応キットは婦人科ではなく緊急外来にある。

④警察へ行く。保管した証拠を持っていく。

また、人から性被害を相談されたらワンストップセンター(#8891)などの支援機関につなげてあげてほしい。

性別や年齢に限らず、性被害は誰にでも起こりうる悲劇だ。

「自分は大丈夫」「あの人は性被害なんかに遭わない」と思わず、日ごろから意識を高めてほしい。 

 

【最後に:性暴力被害者のステレオタイプ

性被害を訴える人に対して「あなたのような不美人(または年増)、誰も狙わない」「挑発的な服装をしていたのではないか」「男性(または男性寄りの表象の人)が性被害に遭うはずない」などの心無い言葉が投げつけられている場面が、SNSなどのネット上では散見される。

しかし、誰の身にも起こりうるのが性被害だ。

本記事では最後に、大阪で性暴力被害に関する情報を発信されている、一般社団法人痴漢抑止活動センター様(*4)より「性暴力被害者のステレオタイプ」についてお話しいただく。

(*4)痴漢抑止活動センター公式サイト

scbaction.org

 

Q:一般的に性犯罪被害者というと、若い女性、露出度の高い服、優れた容姿などがイメージされやすいですが、実際の被害者の属性にはどのような事が言えますか?

A:そういった言説は、少なくとも電車内の痴漢犯罪に関してはてはまらないと言われています。
警察や女性支援団体の方々などが痴漢加害者にアンケートを取ると「たまたまそばにいた人を選んだ」という答えが返ってきます。
しかし「たまたまそばにいた」と言いつつ、痴漢加害者は、ターゲットとする人をしっかりと選別しているのです。
大人しそうに見える人、地味に見える人…つまり、痴漢をしても騒ぎそうにない人を、痴漢加害者は選ぶ。
このような事実が、痴漢加害者のアンケートから分かっているのです。
「痴漢抑止バッジ」(*5)を考案した女子高校生が、同級生の真似をして制服のスカートを短くしたところ、通学電車で痴漢に遭う回数が減ったとという例もあります。
(この場合、スカートを短くしたことで、見た目の大人しさが薄れたということが考えられます。しかし、短いスカートは盗撮被害に遭いやすいため、痴漢対策でスカートを短くすることは推奨しません。)

Q:短いスカートやショートパンツ、ボディラインの出る服などが、性犯罪を誘発するわけではないのでしょうか。

A:短いスカートが盗撮被害に遭いやすいなど、性犯罪の種類やシチュエーションごとに傾向は変わってくるでしょう。
しかし、被害者の服装が性犯罪被害の主な原因になるとは言い切れません。
 2017年にイギリスの性犯罪被害者サポートネットワーク・The Survivors Trustが開催した「性暴力被害者の女性が『被害当時の服装』を再現したファッションショー」では、モデルたちがTシャツにジーンズ、スウェットにチノパン、などといったごく普通の服装でランウェイを歩き話題を呼びました。
被害に遭われた方の服装を性被害のトリガーとする視点は、被害者の「落ち度」を強調しますし、セカンドレイプにもなりかねないのでそのような言説には注意が必要だと思います。

Q:昨今のニュースではいわゆる「ステレオタイプな性暴力被害者」像から外れる人々(年配者や男性など)の性被害が可視化されるようになってきています。性暴力被害者支援の場で、被害者のステレオタイプを問題に感じることはありますか。
A:性被害の危険と向き合い、自衛する人を茶化す風潮はまだまだ根強いです。
「性犯罪者だって不美人(年増/男)は狙わない」「痴漢をそんなに気にするなんて、よほど自分に自信があるようだ」などとねじれた意識を持つ人もいます。
そういう意味で、性被害者のステレオタイプは有害ですし、人々の分断を生んでしまっていると思います。
もっと想像力を働かせて、被害にあった人の辛さに寄り添ってほしいです。

 

記事のやさしい日本語版はこちら

【参考文献】

(*1)「性暴力被害の実際」斎藤梓・大竹裕子/金剛出版

(*2)「性暴力」読売新聞大阪本社社会部/中央公論新社

(*3)「性犯罪被害にあうということ」小林美佳/朝日新聞出版

(*4)https://scbaction.org/

(*5)https://www.nhk.or.jp/shutoken/wr/20220415a.html